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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6325号 判決

原告 中田康仁

被告 羽入田中 外六名

主文

一  被告らは原告が被告株式会社ダイエーにおいて昭和五二年二月二八日東京法務局昭和五一年度金第一五三六四七号をもつて供託した金一、六一九万一、一六〇円のうち金一、五〇〇万円の払渡請求権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らはいずれも原告が被告株式会社ダイエーにおいて昭和五二年二月二八日東京法務局昭和五一年度金第一五三六四七号をもつて供託した金一、六一九万一、一六〇円のうち金一、五〇〇万円の払渡請求権を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告有限会社八洲食品(以下「被告八洲食品」という。)は、被告株式会社ダイエー(以下「被告ダイエー」という。)に対し、昭和五一年一月一日から同年二月一二日までの間にお好み焼、たこ焼、焼そば、鯛焼、ジユース、アメリカンドツグ等の商品を売渡し、右二月一二日現在で被告ダイエーに対し合計一、六一九万一、一六〇円の売掛残代金債権(以下「本件債権」という。)を有していた。

2  原告は、被告八洲食品に対しその運転資金を援助するため、昭和五一年一月八日から同年二月七日までの一か月間に一〇数回にわたり合計金二、三六五万円の貸金債権を有していたが、被告八洲食品は右貸金債権の弁済のために昭和五一年二月一三日本件債権のうち金一、五〇〇万円を原告に譲渡し、この債権譲渡を同月一四日到達の内容証明郵便をもつて被告ダイエーに通知した。

3  しかし、本件債権については、別表のとおり、債権譲渡及び債権差押命令等の通知が被告ダイエーに送達されている。

4  そこで、被告ダイエーは、昭和五二年二月二八日真の債権者を確知することができないとして、民法四九四条及び民事訴訟法六二一条一項に基づき、被告八洲食品、同富士製粉、原告、被告羽入田中、同ユニオンソース、訴外菊池章を被供託者として東京法務局に対し同法務局昭和五一年度金第一五三六四七号をもつて本件債権全額を供託した。

5  しかしながら、原告に対する本件債権の一部譲渡は有効にされたものであり、しかも右債権譲渡の通知は確定日付のある内容証明郵便をもつてされ、その被告ダイエーに対する通知の到達は第3項の原告以外のいずれの債権譲渡及び債権差押命令等の送達よりも優先している。

6  よつて、原告は被告らに対し、原告が供託中の本件債権のうち金一、五〇〇万円の払渡請求権を有することの確認を求める。

二  被告羽入田、同八洲食品の請求原因に対する認否

1  第1項は認める。

2  第2項は否認する。

3  第3項の別表のうち、(3) 、(5) ないし(8) の事実は認めるが、その余は否認する。

4  第4項は認める。

5  第5項は否認する。

三  被告富士製粉の請求原因に対する認否

1  第1項は認める。

2  第2項は不知。

3  第3、第4項は認める。

4  第5項は否認。

四  被告ユニオンソースの請求原因に対する認否

1  第1項は認める。

2  第2項は不知。

3  第3項のうち別表(4) は認めるが、その余は不知。

4  第4項は認める。

5  第5項は否認。

五  被告川口信用金庫、同ダイエーの認否

1  第1項は認める。

2  第2項のうち、原告主張のとおり譲渡通知が到達したことは認めるが、その余は不知。

3  第3項は認める。

4  第4項は認める。

5  第5項は否認する。

六  被告十条セントラルの請求原因に対する認否

1  第1項は認める。

2  第2項は不知。

3  第3項のうち別表(8) は認めるが、その余は不知。

4  第4項は認める。

5  第5項は不知。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1項及び4項の事実は、当事者間に争いがない。

二  まず、本件債権の譲渡の通知の優劣(先後)について争いがあるので、この点について検討する。

(一)  被告羽入田、同十条セントラルを除く被告らと原告との間で成立に争いのない甲第二号証、当事者間に成立について争いのない乙第一一号証の一、二、丙第一ないし第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一一号証、右丙第一一号証により真正に成立したと認められる甲第二号証(被告羽入田、同十条セントラルを除くその余の被告らとの間では成立について争いがない。)によると、請求原因第3項の事実及び同項別表(1) (2) の確定日付のある通知はいずれも同じ昭和五一年二月一四日午後一五時一〇分に被告ダイエーに送達されていることを認めることができ(もつとも、原告と被告ダイエー、同川口信用金庫、同富士製粉との間では請求原因第3項別表の事実については争いがなく、また被告八洲食品、同羽入田との間では同別表(3) (5) ないし(8) は争いがなく、被告ユニオンソースとの間では同別表(4) は争いがなく、被告十条セントラルとの間では同別表(8) は争いがない。)、他に右認定を左右する証拠はない。

(二)  次に、被告八洲食品から原告に対する本件債権の譲渡の効力自体について争いがあるので、この点について検討する。

前掲甲第二号証、成立について争いがない甲第一七、第一八号証、右甲第一八号証により真正に成立したものと認められる甲第一、第三、第五ないし第一三号証(右甲号各証は被告八洲食品との間においては成立について争いがなく、甲第三号証は被告富士製粉との間において、また第七ないし第一三号証は被告川口信用金庫との間においてその成立について争いがない。)によると、次の事実を認めることができる。

1  被告八洲食品代表者戸井田士郎(以下「戸井田」という。)は昭和四九年一一月三〇日同人の義兄にあたる原告に対し会社の運転資金が不足したので金三〇〇万円の融通をたのみ、原告から金三〇〇万円を期間二か月、無利息の約定で貸与を受けた。

被告八洲食品は期間経過後も返済をせず、右返済は延滞していた。

2  被告八洲食品は昭和五一年一月七日約束手形の決済ができず、第一回の不渡を出したが、戸井田はその時急いで原告を訪ねて、同月二七日になれば被告ダイエーから売掛代金二、二〇〇万円の支払が受けられるのでこれで返済をするということで短期の融資を依頼し、原告から同月八日から同年二月七日まで一か月間に一〇数回にわたり合計金一、二三五万円を無利息の約定で貸与を受け、これと引換えに支払期日を昭和五一年一月二七日とする約束手形又は小切手を振出して交付した(従前の分と合せて貸付金の合計額は、一、五三五万円)、被告八洲食品は右貸付金をもつて不渡手形買戻、支払手形の決済、借入利息、給料等の支払に充てた。

3  昭和五一年一月二七日被告八洲食品は被告ダイエーから売掛金約二、二〇〇万円の入金を受けたが、右入金は原告への返済には回されず、強く返済を求めていたホクエイ工事こと訴外菊池宛の手形を返済するのに充てられてしまい、原告に対しては約束手形、小切手の支払期日を一か月延期することを求め、約束手形、小切手を書替えた(甲第七ないし第一三号証。これらの約束手形、小切手はいずれも支払期日に不渡となつている。)。

4  同年二月以降被告八洲食品は原告の援助を受け、第二会社を作ることを考えたりしながら何とか会社の営業の継続を画策したが、同月一二日になつて突如被告ダイエーから契約の継続を拒否され店舗を閉鎖するよう通告を受けたので、戸井田は戸惑い、同日夜原告に相談し、同人に対する多額の借金の返済に苦慮したが、原告に対し、「被告ダイエーからおりる金が一、五〇〇万円ほどあるのでこれを早く取れるようにしてくれ」と申入れ、翌一三日妹の戸井田由美子に被告八洲食品の実印を持たせて、原告のところへ行かせた。

5  原告は、戸井田から同人に対する債権の回収をまかされ、会社の実印を受取つたので、同月一三日弁済の一部に充てるために本件債権のうち金一、五〇〇万円の譲渡を受けることとし、同日右実印を使用して債権譲渡の通知書(甲第二号証)を作成し、右通知を被告八洲食品に代つて被告ダイエーに対し内容証明郵便をもつて発送した(もつとも、昭和五一年二月一〇日付「債権譲渡証書」甲第一号証、同日付「借用証書」甲第五号証は、いずれもその日付に作成されたものではなく、同月一九日頃に作成され作成日付を遡らせたものと認められるが、これらの書類はいずれも、戸井田が同月一六日頃被告ダイエーに対して「訴外菊池に対する債権譲渡だけが本当で、他はすべて戸井田の妻が勝手にやつた無効なものである。」と申立てたので、原告の妻の幸恵が早速同月一九日頃に大宮の戸井田宅を訪ね、同人に債権譲渡の事実を確認し、これらを作成したものであり、この日付を遡らせた事実は、右債権譲渡ないしその通知に関するさきの認定を左右するものではない。)。右認定に反する丁第二号証の一ないし四は、前掲証拠と較べて信用度が低く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実によると、被告八洲食品から原告に対し昭和五一年二月一三日に貸金の支払のためにされた本件債権の一部金一、五〇〇万円の債権譲渡は有効であり、同日原告が被告八洲食品に代つて被告ダイエーに対してなした債権譲渡の通知も有効なものと解される。

(三)  次に被告八洲から被告富士製粉に対する本件債権の譲渡の効力自体について争いがあるので、この点について検討する。

成立に争いのない乙第一、第一三号証、右乙第一三号証により真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証、第四ないし第七号証の各一、二、第八ないし第一〇号証によると、次の事実を認めることができる。

1  被告富士製粉は明治製菓の紹介で被告八洲食品と昭和四六年ころから取引をはじめ、特別に特約店を通さず直接取引の方法で主として小麦粉を継続的に販売したが、当初から被告八洲食品の支払が遅れ勝ちであつたので、昭和四七年五月二六日商品取引契約公正証書(乙第一号証)を作成した。

2  そして、被告富士製粉は昭和四八年二月被告八洲食品から代金支払のために交付を受けていた約束手形のジヤンプを求められるようになつたので、覚書(乙第二号証)を取交わし、右取引により被告八洲食品が被告富士製粉に対し現在及び将来負担する商品の売買代金等一切の債務を担保するために被告ダイエーに対し有する売掛代金債権その他一切の債権を被告八洲食品から譲受け(当時、右売掛代金債権だけが被告八洲食品において担保に供することができる主要な資産であつた。)被告富士製粉が被告八洲食品に代つて被告ダイエーに対し右債権譲渡の通知を出すことができるように金額と日付を空白にし被告八洲食品の署名・捺印のある譲渡通知書の交付を予め受けた(乙第三号証)。

3  前記商品取引契約(乙第一号証)六条及び七条によれば、被告富士製粉は被告八洲食品が本件取引に基づく商品代金その他の債務のうち一つでも履行を遅怠したとき、又は振出した手形、小切手の支払を拒絶したときには、本件取引に基づく債務全額につき期限の利益を失うとともに被告八洲食品から提供を受けた担保権を何等の催告の手続を要しないで実行できることが約定されている。

4  被告富士製粉は被告八洲食品に対し本件取引に基づき昭和五〇年一二月末迄に売渡した商品代金の支払のために約束手形四枚(乙第四ないし第七号証の各一)を受領していたが、被告八洲食品は昭和五一年一月七日に額面金八五万円の約束手形(乙第四号証の一、二)を不渡としたため、被告富士製粉は担保権の実行として、前述の予め被告八洲食品から交付を受けていた被告ダイエーに対する債権譲渡通知書(乙第三号証)を差出そうとしたところ、右通知書に記載されていた被告富士製粉代表者名が旧代表者の表示のままであり、また被告八洲食品の住所の表示も本店移転前の旧表示のままであつたことから、被告富士製粉の担当者高久直文は被告八洲食品代表者にその旨を説明し、すでに交付を受けている前記債権譲渡通知書(乙第三号証)と同趣旨の債権譲渡通知書を改めて作成できるように、白紙に被告八洲食品の代表者印を押捺したものを同人から交付を受けた。

5  被告八洲食品はその後右約束手形(乙第四号証の一、二)の支払をしたので、被告富士製粉は被告ダイエーに対し債権譲渡通知書を差出すのを一時保留し、昭和五一年二月初旬まで被告八洲食品に対し更に代金合計九〇万四、〇〇〇円の小麦粉等の商品を売渡したが(乙第八ないし第一〇号証)、被告八洲食品は同年二月七日になつて支払期日を同日、金額一二一万四、〇〇〇円の約束手形を決済することができなかつたため、被告富士製粉は同月一二日右約定どおり被告八洲食品に対する小麦粉等の売掛残代金債権金三二一万五五一七円について、同被告より担保として受取つていた同被告の被告ダイエーに対する売掛債権のうち金三二一万五五一七円につき担保権を実行することとし、前記のとおり被告八洲食品の代表者印の押捺してある白紙を使用して旧債権譲渡通知書(乙第三号証)と全く同趣旨の債権譲渡通知書を作成し、これに同日現在の被告富士製粉代表者と被告八洲食品の本店所在地、被告富士製粉の被告八洲食品に対する売掛債権残高及び譲受債権額を記入し、右同日を差出日とし、これを前記約定に従い被告八洲食品に代つて被告ダイエーに対し内容証明郵便をもつて発送した。

右認定に反する丁第二号証の一ないし四は、前掲証拠と対比してたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実によると、被告八洲食品から被告富士製粉に対し昭和四八年二月に債権担保のためになされた本件債権の譲渡は有効であり、また昭和五一年二月一二日付で右担保の実行として、被告富士製粉が被告八洲食品に代つて被告ダイエーに対してなした右確定日付による本件債権の譲渡の通知も有効なものと認められる(債権担保の目的で、現在及び将来にわたつて継続的に生ずる特定の売掛債権を譲渡し、信用を悪化させる事由が発生した場合に、譲渡債権額を確定すべく、譲受人が譲渡人に代つて第三債務者に譲渡通知ができるように日付、金額等を空白にした譲渡通知書を予め譲受人に交付するような譲渡契約も違法なものではないと解される。)。

(四)  以上の次第であるので、原告に対する債権譲渡と被告富士製粉に対する債権譲渡はそれぞれ有効なものであり、その確定日付のある通知は被告ダイエーに昭和五一年二月一四日の同日時に到達し、これらの通知は他の被告らに対する債権譲渡及び債権差押決定の各通知より優先しているものと認められる。

そうすると、原告と被告富士製粉は他の被告らに対する関係で優先し、それぞれ同順位で債権者たる地位を有効に取得し、互いに右譲受債権について自己を債権者として主張することができるものと解される(債務者である被告ダイエーとしては、同順位の譲受人のうちのいずれか、もしくは両名に対して債務全額を弁済すればその債務は消滅するものであり、また同順位の譲受人相互の法律関係は、その終局的解決としては、互いに債権を独占できる地位にないことの必然的な帰結として、債務額(あるいは供託にかかる払渡請求権の金額)が同順位の譲受債権の合計額を下回るときには、譲受債権額の割合で清算がなされるべきものである。)。

三  よつて、原告の本訴請求は正当であるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田二郎)

(別紙)〈省略〉

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